クチコミを考えるには、人の心理を知らないといけない
「その話は実際にブログを書いている本人を知っている同僚同士だから起こるような気もしますね。それはさておき、今聞いてちょっと理解できると思ったのは、ランチって必ず食べるでしょう。例えば、お米を買うときに『あきたこまち』か『コシヒカリ』かで悩むというケースでもいいんですが、必要なものを選ばなくちゃいけない状況って全員に等しくあると思うので、そのときに他の人の意見を参考にすることはありますね。でも買わなくてもいいPS3を買うとか、スニーカーを買ってジョギングをはじめるとか、本来必要ではないことを相手にやらせるのとは違うと思います」
「なんとなく選びたいもの程度でも効果はあるんじゃないでしょうか。旅行とかそうじゃないですか。ブログで誰かが外国に行ったことを書くと、他にその国に行く人がやっぱりいるんですよ」
「旅行に行くのはぼくには理解できないですが、クチコミを考えるときに心理学って重要ですよね。人間って基本的に怠惰で物事を決めたくないと思っているんです。マニアとかオタクとかいろんな言葉があるけれど、その人ってすべてにこだわりがあるわけではなくて、米はこれ、水はこれ、野菜はこれとか全部のものにこだわりを持っている人はまずいない。その人は米にうるさいかもしれないし、電化製品にうるさくてソニー以外買わないとか、車はトヨタにしか乗らない、といようなこだわりはあっても、何から何まで自分の明確な意思で決めている人はほとんどいないと思います。だから自分にこだわりがあるかないかでも影響の度合いが違うんじゃないでしょうか」
「どこそこの車を買いましたという記事を読んでも、その車は買わないですよね。それでニーズが掘り起こされるというよりは、そもそも自分にニーズがあったり、後日できたときに選択肢が入ってきやすいという感じなのかもしれないですね」
「自分の意見とか主張、選択基準というものがない状態、さっきのランチのように、別にどこでもいいけど食べなきゃいけないってときに、誰かがおいしいと言ったらとりあえずそこでいいやという程度の話ですね。後悔したくないもの、つまり車を買うということは間違えたらめちゃくちゃ後悔するけど、ランチがまずくても二度と行かなければいいだけの話です。価格や消耗頻度によると思うんですが、選択を失敗したときにあきらめられる場合は、わりと人の意見に流されやすい気がします」
「見るきっかけにはなっても、購入する動機にはならないでしょうね。いったん見てみようかな、くらいにはなるんでしょうけど」
「いったん見てみようかなって思わせることができたら、私だったらもう成功だと見ていいんじゃないかなと思いますね。そういう意味でもクチコミは仕掛けられると思いますよ。仕掛けるっていうのが、購入ってところを成果とするか、知ってもらう機会を与えたということを成果とするかで差はあるんでしょうけど。これは広告代理店に対してゆるい基準になってしまうのかもしれないのですが、認知する機会をユーザーに与えただけで良いという考え方もあると思います。広告主としてはすごく甘い評価基準でしょうけど。私自身の例でお話しすると、十ヵ月前にブログキャンペーンをやっていた、あるゲームを最近買ったんです。たしかに私はキャンペーンがきっかけで興味を持ったのですが、そのときは買うこともなくて。でも十ヵ月後に購入した自分が今ここにいることを考えると、十ヵ月後だけど、それはブログキャンペーンの成果じゃないかと思うんですよ」
「十ヵ月後だと担当の代理店はほめてもらえなかったでしょうけどね」
「今の話を聞いていて思ったのは、クチコミマーケティングってその人とブランドとの結びつきみたいなものが重要になっているのかなと個人的には感じています。さっきの『クチコミとは何ぞや』という定義ですけど、ある調査によると一週間のうちに人間は200くらいのブランド名を語るらしいんですよ※。その出てくるブランド群の中に自分の会社やサービス名が入れるようにがんばろう、というのがアメリカでのクチコミマーケティングの考え方になってきているらしくて。私自身もブロガーイベントやっていて思うのですが、これはウケないだろうっていうものも意外に喜ばれたりするんです」
「なるほど。そのブランドとの結びつきを実現する役割が従来のマス広告ではなく、クチコミマーケティングなのかがいまいちわからないですけど、消費者の選択肢に入ることが重要なのは真実ですね」
「弊社で飲料メーカーの新商品のイベントを代理店とがっちり組んでやったんですけど、同時期に他の代理店もその商品のサンプリングもやっていたんです。そうしたら、やっぱりブロガーイベントに呼んだ人たちはやたら詳しく新商品のことを語ってるんですよ。一方、サンプリングのほうは『お店に行ったら何かもらえたからラッキー』という程度しか書いてなくて。マーケティングの担当者はブログに書かれた書かれなかったという実数より、内容を見てまたブロガーイベントをやりたいと言ってくれたりするんです」
「詳しく語るというのはどんなふうにですか?」
「例えばメーカーの歴史を延々と書いていたり、新商品の味の由来とかもレポートされていて、そういうことを広告主は喜んでましたね」
「うーん、それはただのトリビアですよね。ブリヂストンの社名の由来が創業者の石橋さんだというのとあんまり変わらないんじゃないでしょうか。もちろんそういう秘密っぽい情報がクチコミしたくなるのはわかりますけどね。クチコミの定義が曖昧なまま話を進めるのは申し訳ないんですが、単純にイベントに呼んだ人が満足して、翌週その人が語る200のブランドの中に入れてくれるかという話で言えば、ものすごく効率が悪いと思います。百人くらいしか集まらないイベントに人員を割いて、そのうちの何人かが翌週クチコミしてくれるかもしれないけど、たかだかしれていますよ。ネットも同じでブログに書いたところでそれを読む人の数っていうのはごく少ないものですしね。さらに読者全員がすべての記事を隅から隅まで読んでいるわけじゃなくて、興味がないと思ったら読み飛ばすわけでしょう。RSS※の購読者数やアクセス解析のユニークユーザーは最大の数字であって、大抵はその半分以下しか読まれていないのが現実です」
(まだ続きます)
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