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サマンサタバサ 世界ブランドをつくる

サマンサタバサは社会人になって初めて付き合った彼女が好きだったので、けっこう前から知ってるけれど、(それ以降も含めて)プレゼントをしたことは一度もない。好きなブランドじゃないけど、気になるブランドというのが正直な感想。

その社長が書いた本がこれ。

まず驚いたのが社名の由来。「奥様は魔女」から取ってないんだって。びっくり。ぼくはずっとそう思ってた。ほんとの由来は教えてくれてないんだけど、なんなんだろう。……とここでミステリアスな部分をあえて提示するのもブランド戦略なのかもしれない。
でもなあ、ブランドを作るとか言ってるけど、(この本の表紙にも使われてる)サマンサタバサのテーマカラーって、もろにティファニー・カラーですね。

この本で言うところの「ブランド」は、わりと狭義な話なのでぼくが普段語ってる「ブランド」とは少し違うんだけど(言うまでもなく、シャンプーやボールペンにだってブランドは存在する)、寺田さんによればブランドを作り上げるには、

  • 良い人
  • 良いもの
  • 良い宣伝
  • 良い場所

の4つの要素がとても重要であるということです。これは同感。

マーケティングの4Pというと「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「プロモーション(Promotion)」だけど、「価格(Price)」の代わりに「人(People)」が入ったと思えばいいです。なぜならブランドというものは(ちょっと極論だけど)最終的に付加価値を産み出して競合よりも高い価格をつけられるようにすることなので、ブランド戦略というのは価格戦略と関係がとても深い。
というかまあこの4つが揃ってて失敗するほうがおかしいのだけどね。

全体を通して、非常に頭のいい経営者だなという印象を受けた。メディア・トレーニングをしっかり受けているのか、元々そういうスキルを持ち合わせている人なのか、自分の言動の与える影響についてよく考えながら語ってる感じ(たぶんこれは語りおろしですよね)。

とにかく一貫して、社員を褒めて、お客さんを褒めている。「女性は男性よりも有能だ(同社の社員の9割以上が女性)」とか「お客様は本質を理解するから広告なんかに騙されない(だからサマンサタバサのバッグを買ってくださる)」とか。
ぼくも広報対応は得意なほうなので、どうしても裏の意図が見えてしまうんだけど、普通にこれを社員やサマンサタバサの購入者が読んだり聞いたりしたら気持ちいいだろうなって思った。こういうロイヤリティの高め方もあるんだなって勉強になった。ほんとに上手です。

読んでて矛盾してるなあと思う箇所もちょこちょこあるんだけど、どうしても違和感があったのはこのあたり。

「セレブにバッグを持たせて広告塔にしている」と言われることもあります。海外のセレブリティのパワーを借りて箔を付けている、と。でも、それは断じて違います。
(P.150)

これはちょっと無理がありすぎ。別にセレブの力を借りていいじゃん。それが自分たちのメッセージを伝えるのに最適な方法なら、エビちゃんでもシャラポワでもヒルトンでも知名度(というか彼女たちそのもののブランド)を借りればいいと思う。

もうひとつ。これは販促手法も、そのことの事後フォローもすごくうまい。

出張族の男性ビジネスマンをターゲットに、サマンサタバサというブランドを認知させることに取り組みました。
ある航空会社の国内線で機内販売を行ったのです。
結果的には記録的な売り上げとなりました。
(P.160)

当然のように機内限定商品を出すわけです。(商品は男性用のもあったのかもしれないけど、おそらく主には女性向けのもので)お父さんたちが娘から「買ってきて」とおねだりされるわけ。言われるがままに買ってきたお父さんは娘に感謝されて家庭円満、というストーリー。これを考えて実践したそうです。

よくできている。これを寺田さんが考えたのなら素晴らしいプランニングだと思う。羽田-伊丹の1時間でさえ機内販売の雑誌はヒマだから読みます。買ったことはないけど。買うきっかけさえ提供すれば見事に売れるわけです(機内限定は効果的)。
でもこういう成功譚は営利主義の色が強くて非難されることがあります。別にいいと思うんだけどね。だからエクスキューズをしています。

しかし、この宣伝のあとには、やはりブランドとしての付加価値は落ちているということを実感しました。
(中略)
私自身の印象としては「付加価値というケーキを少し食べた」結果に終わりました。
(P.162)

こう弁解することによって、サマンサタバサとしてイレギュラーな宣伝だったことを主張している。例えばプラダのように、本当のセレブが所有するブランドになれば儲かってることをもっと堂々と言えるのかもしれないんだけど、まだそこまでのステージにないというか、サマンサタバサというブランドが「セレブに憧れる」層に支持されているので、微妙なバランスを取らないといけないんだろうな。でもすごくうまい舵取りだと思います。
これだけのことを考えている経営者はけっこういると思うけど、それをここまでちゃんと言葉にしてミスなく行動できる人は少ないと思う。

ブランド論というよりは、自己啓発っぽい本ではあるんだけど、モチベーションの高まる良書だと思います。

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